やさしい義眼のつくりかた How to make artificial eye and prosthesis

顎顔面補綴という仕事を通じて身につけた義眼やエピテーゼの製作技術やその背景をご紹介。 あまり広く認知されていない技術ですが、どこかで誰かの役に立てればいいですね。 フィギュアなどの趣味にも生かせるように、なるべく特殊な材料や 道具を使わない方法も お伝えできればと思います。 How to make artificial eye and prosthesis.

How to make artificial eye and prosthesis.

耳のエピテーゼ

小耳症 耳のエピテーゼ メンテナンス

 わたしが作るエピテーゼは通常スペアを含め2個セットになっています。

中には「一個でいいから値段半分にしろ」といってくる人もいますが、 特殊なケース以外はききません。

必ず2個あった方がいいということは後々理解してくれますね。
リタッチや修理で預かる場合、どうしても数日かかってしまいますから。

 昨晩はそんな里帰りしてきた耳のエピテーゼのメンテをしました。

この耳の持ち主は小耳症のケースで、普段からバイクに乗っている方。

ヘルメットをつけるのは耳のエピテーゼにとって、結構過酷な条件ではないかと思います。

装着に使う接着剤も強力なものを使われています。

ただこのタイプの接着剤だとエピテーゼが汚くなりがち。
毎日外した後にリムーバーを使って、古い接着剤をきれいに取り除いてくれればいいのですが、なかなか大変な作業でもあるようです。

 一応お渡ししてから1年間は保証期間をもうけており、脱色や褪色変色のリタッチとか、軽度の破れ破損は無償修理の対象になっています。

ここ最近のエピテーゼの製法を変えてから、ほぼ褪色とか変色、色の剥がれなどはほとんどなくなりました。

薄い辺縁の破れや欠損、古い接着剤の取り残しなどで少し汚くなって帰ってくるのが多いですね。

 
エピテーゼの場合はしばらく使われたものは皮脂の影響で、色のりが悪かったり、新しく欠損部などにシリコンを追加してもきれいに接着されないことが多いです。

しょうがないといってしまえばそれまでなんですけど、やはりきれいにしてお返ししたいなと。

よほど古いケースで型が残っていない場合を除いては、新しくシリコンを詰めて作った方がきれいにできますし、自分の気持ちもスッキリします。

シリコンの色合わせがちょっと必要になってきけどね。

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写真は左のタッパーに入っているのが里帰りしてきたものです。
古い接着剤を極力取り除きましたがそれでもなんとなく汚れた印象ですよね。
辺縁もすこし痛んでいます。

右側は新しくシリコン詰めて作ったものです。

褪色しやすい赤色の色素を見越して若干赤みを強くしました、というか最初に作った時の色はこのくらいだったはず、という記憶に基づいてます。

ヘルメットを被るので前の辺縁から浮き上がってくることがあるとのこと、型を調整して辺縁を少し延長しました。

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耳左側のパレットはシリコンの調色時に使うパレットです。
ここに色素を練り込んだシリコンを入れて比較しながら色を追い込んでいきます。
できたものは後々色見本としても使えます。


 

耳のつくりかた

たまには復習の意味で備忘録に書き込んでおきます。

耳のつくりかたの本はすでに出版済みですが、やはり写真と文章だけでは伝えられないところがあります。

べつに企業秘密とかいって隠すほどのものではないのですが、多分・・・かなりの数の耳を作ってきてそれなりに導き出された手技みたいなものはあります。

結局は数を作らないと見えてこないものがあるので・・・まぁ、そういうことです。

今日はさらっと流れだけ残しておきます。

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小耳症のケースです。
最近はほとんど3セッションで耳のエピテーゼを終わるようにしています。

というのも、エピテーゼの仕事に使える時間というものが限られているので、しかも新年の抱負は「なまける」ですし。

なるべくサラサラっと作るように努めています。

大体患者さんとわたし、お互いのスケジュールに無理がなければ土日をエピテーゼの仕事に充ててます。

初回を土曜日にして、この日は型どりと色のサンプリング。

以前やってた水彩絵の具はめんどくさいのでやめました。
最近はもっぱら写真に写ってるような、シリコンの色ガイドから似た色を探して間に合わせてます。

2日目は翌日の日曜日。
この土曜日から日曜日の間がちょっと頑張らないといけません。

アルジネートで型どりしたものに石膏を流して、それを3Dスキャン。

パソコン上で気泡なんかを修正して左右反転し、3Dプリントします。

プリントしたものを再度アルジネートで型どりして、それに溶けたワックスを流し込んでワックスの耳を作ります。

 以前は頑張って手作業でこのワックスを彫刻して作っていましたが、やはり自然の造形というのかこういった柔らかい複雑な曲面は模倣するのに時間がかかります。

3Dの運用でこの辺りはかなり楽になりました。

そうやってできたワックスの耳を小耳症側の模型に合わせていきます。

このあたりでちょっと独特なことをするのですが、説明するのが難しいので端折ります。

ワックスの耳を最終仕上げして埋没。

大体この辺りで既に土曜日の夜中ですね。気分がまだ乗ってればシリコン詰めるところまでやるのですが、ほぼこの辺りで就寝。

次の日、日曜の朝からシリコンの色を作って詰め、午後のアポイントまでにシリコンの耳を一個作っておきます。

昼過ぎに患者さんこられたら、できたシリコンの耳をステインしたり、あてがって適合状態のチェック、辺縁をどこまで持っていくかなどなどチェック。

そういった調整が終わったらこの日は終了です。

通常😅シリコンの基礎色がまだ詰めが甘かったりしますね。
耳の形自体を大きく変えることはほぼなくなりました。この辺りが慣れとか経験値によるものなのかな?

耳の形から修正する場合はまた型を作り直さないといけません。

 最終のアポイントが翌週の土曜日。
間が少しあきますが、この間は頭の中で仕事します。

シリコンの色の違いを反芻してどう色を調整すべきか悩みます。
色のセンスがある人ならこの苦労や悩みはないんでしょうけど。

・・・で、大体金曜の夜くらいからまた反芻した結果を元に、シリコンの調色そして型に詰めます。

重合が終わったらバリ取りして乾燥させてステインしてコーティング仕上げとなります。

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2日目のステインでバッチリ色が合ってれば、それを参考にステインすればいいだけなのですが、基礎色自体の色の系統が違っていたりするとややこしくなりますね。

ステインで無理やり色は合わせられるのですが、やはり基礎色が合ってないとダメです。

多分ダメなのはわたしだけなんでしょうけど、ステインがうまくないので、ステインに頼りすぎるとだんだんムラになってきて不自然な耳になるんですよね。

なるべく基礎色でほぼ色が合っていて、ステインは薄化粧程度が理想。

 上の写真はそんなドタバタを経て、なんとかバリ取りまで漕ぎ着けたシリコンの耳です。

この症例では最初の耳の基礎色が少し黄色みが強かったのと、透明感が出過ぎていました。

その反省を踏まえ赤みと不透明度を若干強くして、部分的に赤と白のファイバーをシリコンに混ぜて詰めたものです。

問題はこの時点で患者さんの耳を見てから既に5日ほど経っていて、記憶色だけが頼りです。

そんな諸々の不安を抱えながら軽く最終のステインをしてコーティングと仕上げをします。

・・・で翌日の土曜日に患者さんご来院。

まあ、言い訳になりますが、耳というのはものすごく色が変わりやすい部分です。
温度とか感情とか・・・なんとなくわかっていただけるかと思います。

そういうのもあって、できた耳を合わせて見るまではまさに神に祈る状態です。

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この写真はステイン中のもの。四角いシリコン片が色見本ですね。

これと型どり時に撮った写真を手がかりにステインします。

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このケースではスキンタグの位置が結構前側にあり、縦に長い。
スキンタグ上部は通常固くコリコリしていますが、この患者さんは特に高さが高かったです。

ここ最近はエピテーゼ辺縁をなるべく伸ばさない方向で作っていたのですが、この症例ではスキンタグの反発で前側から浮き上がってくる可能性が高かったため、前方の辺縁は少し長めにしました。

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 結果は神の助けとまぐれ当たりで大丈夫でした。

特に修正することもなく接着とメンテナンスの説明をして、実際につけてお帰りいただきました。

 自分の悪いところはわかっているんですが、なんかもっとこう勢いで作るんじゃなくて、緻密に積み上げていくような作り方をしたいんですけどね。

ただあまり緻密に行き過ぎると木を見て森を見ずになりがちだしなぁ・・・・

今のところは森しか見ていない感じ?木の部分は3Dに頼ったり・・・

いまだに悩みは尽きません。



耳のエピテーゼ 製作工程と時間

エピテーゼを求められて、ときどき遠隔地からこられる方がいらっしゃいます。

飛行機に乗ってこられる方もいらっしゃるし、そういった方はもちろん日帰りというわけにはいかず・・・

ただ、いまの状況では宿泊先を探したりというのも難しいみたいです。

 土曜日にこられた方は車で数時間かけて来られた、耳のエピテーゼ希望の方。

事前の打ち合わせでは土曜日に型どり、日曜日にワックスの耳の試適。
週をあらためて翌週土曜日にシリコンの耳のステイン・・・、で日曜日にセットという予定でした。


宿泊先や仕事の予定もあるのと、何より早く耳をつけたいというご本人の希望が大きく、すったもんだの末予定変更。

土曜日に型どりして翌日日曜日にセットという事になりました。
かなりの強行スケジュールになってしまう予感・・・・・・

土曜日はわたしの都合で午後に面談と型どりになりましたので、その日は型どりまで。

翌日朝までにシリコンの耳を用意してステイン、午後までに仕上げてセットというスケジュール。

土曜日の午後にセミナーが一件はいっていたので、ちょっと時間的にかなり厳しいスケジュールになってしまいました。

 シリコンの色合わせ、型どりから3Dへの変換、ワックスパターンの製作、このあたりがだいぶシステム化されて以前のような無駄がなくなったのでなんとかできるでしょう。

それでもワックスパターンから埋没まではそれなりに手作業と時間がかかります。

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型どりしたものに石膏まで流して、セミナーのため中座。
夜に帰ってきてから石膏模型をスキャン→反転→3Dプリント→プリントしたものからワックスパターンを起こして埋没。

スキャンはだいたい15分ほど、プリントは積層の厚みを0.3mmに落として1時間半でした。
このあとは手作業で、通常の工程にほぼ近くなります。

 そうそう、色合わせは型どりのまえに終わらせています。
外からこられた方はエアコンが効いたところでしばらく面談し、その間にほてりやなんかが落ち着いたところで色を確認します。

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自家製シェードガイドで基礎色を選びます。

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いままでの財産、シリコンのサンプルで近いものがあれば、かなりやりやすくなりますね。
近いものがない場合はこのときにシリコンを練和して、一部重合させて色合わせします。

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この方の場合幸い近いものがサンプルの中にありました。

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写真では色が違って見えるのですが、ベースと赤みのある部分はこの2色でいけそう・・・。

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ちなみに小耳症の方で、左の耳がクラス3といわれる状態の耳です。

結局型どりしたのが午後1時、2時から7時までセミナーで中座。
帰宅後石膏模型をスキャンしたりと作業を始めたのが8時過ぎでした。

ワックスの耳を石膏埋没してワックスを洗い流すとこまでで、もう夜中の1時を過ぎてしまいました。

もう体も目も疲れているので、一旦寝て翌朝早くにシリコンの調色と填入をすることにします。

・・・・・・翌朝シリコンの耳ができたのが9時頃で、すでに期待に胸を膨らませた患者さんは待っています。

30分ほどでステインを済ませ、一旦患者さんには時間つぶしにでかけてもらいました。

 特に遠隔地のケースでは都合3つの耳を作ります。
ひとつはこの最初にステインする耳で、ステイン後は大切に保管。
後日紛失、ダメージ、退色などで新たな耳が必要になった場合にも、元ネタを保存しておけば同じ耳を作って郵送することができます。

・・・で、この色をもとに別に患者さんにお渡しする2つの耳を作ります。

 患者さんが時間つぶししてくれている間に、その2つの耳をまたシリコン詰めて作ります。
シリコンの耳ができたら最初の耳を参考にステインをして、コーティング、つや消しの作業をして完成となります。

このあたりの作業は結構みっちり集中して仕事しないといけません。

3時間強忙しく立ち働いて、約束の午後2時までに仕上げることができました。

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今回の小耳症のケースは小さい穴が残っていて、音も少しながら聞こえるとのこと。
エピテーゼにもこの部分を塞いでしまわないように穴を開けましたが、この部分が少し気になっています。

もう少し大きく開けておいたほうが良かったかなとおもいつつも、薄くなる部分なので裂けやすくなるし・・・・

とりあえず患者さんは喜んでくれたので、良しとしましょう。

途中のセミナーは義眼のセミナーでしたが、これはこれでいろいろと実りがあったので次の話題で・・・


 

うすかわ

昨晩型に仕込んだ耳を朝開けてみました。

あんまり長く閉じた状態にしておくと開くのが大変になります。


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写真は耳の内側にあたる部分ですが、こんな感じで回りが薄くなってくれていると成功かな・・


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この周りが厚くなりすぎていると切らないといけないし、切った部分は当然エッジに厚みが出てしまいます。

エピテーゼを装着したときに境目が目立つと違和感が出るので、なるべく移行的に馴染むように結構気を使うところです。

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全部はずしたところです。
薄くするといってもやたら薄い部分が大きすぎると後々破れやすくなるので、どこまでを境界として移行的に作るか。


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このあといったん余分なところを切り取って、さらにあとあとどこまでをマージンとするかいじっていきます。

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ここがいつも苦労するあわせ目。
でも例のニッパーがあるので今は大丈夫。

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あとでネチネチと調整することにします。

耳のエピテーゼ 仕上げ

シリコンのエピテーゼになってから、最終のステインを患者さんの顔の上でおこないます。

以前は冷や汗タラタラの作業でしたが、自分なりに色のとり方と調色再現がほぼほぼ確立されたため、ほんの少しのステインで済むようになりました。

シリコンを型に詰める段階で基礎色ギリギリまで近づけているので、外部ステインは最小限のキャラクタライズだけですみます。

このことはエピテーゼを使ってもらううちに起こってくる、退色や表面のスレが起こってもほとんど目立つことがありません。

地味な改良ですが、ここに至るまでには結構長かったような気がします・・・
というかまだそんなことで悩んでるのかよ、といわれるかもしれませんね。

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これが基礎色のままで一切ステインしていない状態です。

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これがステイン後の耳。

以前はこのあとコーティング、とマッティングをして仕上げてお渡ししていたのですが、この子顎の仕上げはやはり急ぐべきではないなと・・・

最近はこのあとさらにステインのムラを取り、エピテーゼをよく乾燥させ、コーティングとマッティングを行うようにしました。

患者さんにはもう一度来ていただくか、できたものを郵送で送るかを選べるようにしています。

それでも遠隔地の患者さんでも再度こられることを選択されるのがほとんど。

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・・・で、最終のキャラクタライズと色の調整をし、コーティングなどの仕上げを終えたものがこれです。

昨日がそのインストールの日でした。

最終のステインでは毛細血管を描き込んだり、ムラを無くしたりとごくごく地味な作業ですが、少しだけ全体の赤みを強めました。

これはクリニックの冷房が効きすぎなため、多分普段の生活環境だともう少ししとんが高いだろうというのと、赤の色素というのは経年的に薄くなりやすいためそれを見越してのことです。

・・と、いわれても多分一般にはわからないレベルの地味なこだわりです。

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この方は小耳症のクラス3に該当するスキンタグです。
外耳の穴は開いていません。

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試しに乗っけて筆で押さえて鏡を見てもらっているところです。

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その後接着剤の使い方とメンテナンスの仕方、それに装着の方法を指導して実際に付けてみたところです。

耳の形は3Dを使ったので完璧に左右対称になっています。

患者さんは結構こだわりのある方でしたが、今回はうまくいった症例の一つになりました。





顔面補綴マニュアル  やさしい義眼の作り方 How to make artificial eye
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村井 さむ

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日本でのプレッシャーを逃れフィリピンに移住してはや10年、まだ生きてます。やさしい義眼の作り方

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