やさしい義眼のつくりかた How to make artificial eye and prosthesis

顎顔面補綴という仕事を通じて身につけた義眼やエピテーゼの製作技術やその背景をご紹介。 あまり広く認知されていない技術ですが、どこかで誰かの役に立てればいいですね。 フィギュアなどの趣味にも生かせるように、なるべく特殊な材料や 道具を使わない方法も お伝えできればと思います。 How to make artificial eye and prosthesis.

How to make artificial eye and prosthesis.

歯科

やりすぎ歯科伝説

日本の情報にうとくなって久しいのですが、表題のようなテレビ番組?があるのかな?

先程アップした歯科ネタが 意外に受けているようなので・・・

やはり技工士さんが多いのかな?

今日はラボの仕事があまり忙しくないので・・・というより先程ちょっとめんどくさい仕事を終わらせたので、ついでに載せてみます。

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一見なんの変哲もないブリッジに見えます。
真ん中の歯が抜けているので、両側2本の歯を削ってブリッジというよくある症例です。

ジルコニアで作りました。

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咬合面からみても特に凝ったこともしていません。

新規の歯科医師からのケースなのですが、なんか変な期待を持たれてしまってまして・・・

わざわざラボまで来られて、あれこれ1時間ほどケースディスカッションみたいなことをしていかれました。

左右両側とも第一大臼歯が欠損しているので、両側の歯が寄ってきてしまっています。

患者さんは入れ歯は嫌だというのでブリッジに普通はなるのですが、両側の歯の平行性がないのでブリッジを入れるように歯を削ると神経を抜いてしまわないといけないとのこと。

健康な歯なのでなるべく神経は抜きたくないという良心的な歯医者さん。

まあ、その歯医者さんご本人がやってみたかったというのがホントのところだと感じましたが、アタッチメントを仕込んで真ん中のポンティックとかダミーといわれる部分を外せるようにできないかと・・・

普通のキーアンドキーウェイのアタッチメントだと、ものがジルコニアだけに破折が怖い。

ちょっとアタッチメントの形状をアレンジすることにして承りました。

たぶんこれもプレゼンか何かに使うんだとおもいます、ご本人が半調節性咬合器に模型をキレイにマウントしてきてくれました。

なかなか歯医者さんが半調節性咬合器を持っているというのも少ないので、やはり凝り性の先生なんでしょうね。

その凝り性にお付き合い申し上げました。

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真ん中のポンティックを外すとこうなっています。
念の為エンプラ製のクッションを入れています。

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組み立てるとこうなりますが、組み立てた状態では歯の平行性がとれてないのでそのまま模型には戻りません。

なんかパズルを作っているような感覚でした。

ポンティック下の部分は外して掃除しないとだめじゃん、とおもいますが患者さんやってくれるのかな?

この症例もMeshmixerでデザインしました。

100万円くらいする歯科のCADソフトは要らないじゃん、と思っていますがラボのオーナーにはいえませんね。

 

歯のエピテーゼ

わたしにとっては歯の仕事もエピテーゼととらえています。

人体の中に使うものはプロテーゼ、外側に使うものはエピテーゼと聞いたことがありますが、そうすると歯はどっちなんでしょうか?

人体の中の欠損や変形、外観の回復、審美性の向上 というのがエピテーゼの目的なら同類ですよね。

というわけで、今日はおもに歯科技工士さん向けのはなしになります。

おおまかな流れは、歯のないところにインプラントを立てて、その上にブリッジといわれる人工の歯を作る流れです。

デジタルの応用例ですので技術的にはちょっと新しいのかもですね。

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これだけ見ると歯科関係の人でなければどの部分なのか分かりづらいですね。

上顎の型どりしたものに石膏注いで固めた模型を3Dスキャンした状態です。
歯が一本だけ残っています。左上の第2大臼歯です。

Screen Shot 2021-06-01 at 10.32.15 AM

この石膏模型を預かって通常の入れ歯を作るように、ワックスの上に人工歯を並べました。
このワックスの入れ歯をいったん患者さんの口に入れて試適。
歯の並びや大きさかみ合わせなどなどチェックします。

このあたりは歯医者さんで行うところです。

歯医者さんで試適が終わってまたわたしのところに戻ってきました。
全体のバランスに問題はなかったそうなので、この入れ歯をスキャンして元の模型のデータに重ね合わせます。

この入れ歯のデータがブリッジを作るガイドになります。

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この写真はインプラントを建てる骨の部分に穴をあける時のガイド。
CTスキャンのデータと模型のデータを重ね合わせて、インプラントを建てる位置、太さ、長さを決め、それをもとにこのガイドをデザインします。

この部分は顎骨の診断とか関わってきますので、歯医者さんの仕事です。
歯医者さんも3Dを勉強しないといけない時代になってます。

Screen Shot 2021-06-01 at 10.33.32 AM

予想ではこの位置にインプラントが埋まることになります。

Screen Shot 2021-06-01 at 10.32.53 AM

現在の主流2ピースのインプラントを使いますので、インプラント本体が骨に定着したら上のブリッジはネジ止めします。

そのネジを締めるためのドライバーを差し込む方向が写真の黄色い棒。

Screen Shot 2021-06-01 at 10.33.45 AM

骨の厚みや神経の位置などなど、いろいろ要件がありなかなか都合のいい位置にばかりインプラントが立てられるわけでもないですね。

Screen Shot 2021-06-01 at 10.35.30 AM

入れ歯のデータをみながらデジタルの歯を並べていきます。

手前味噌ながらこのデジタルの歯はわたしが作ったMeshmixer用のライブラリーです。
ちなみにこのインプラントブリッジのデザインもすべてMeshmixerでやってます。

無料のソフトでここまでできるってすごくないですか?
歯科用のCADソフトもラボにあるのですが、こういう大きな症例はもっぱらMeshmixerばかり使っています。

Screen Shot 2021-06-01 at 10.36.12 AM

この症例は歯がなくなって久しく、骨もある程度収縮しているためブリッジには歯肉の部分も作ります。

この部分のデザインが歯科用のCADソフトではやりにくいので、Meshmixerを使う理由でもあります。

Screen Shot 2021-06-01 at 10.36.19 AM

ネジ締め用のドライバーを差し込む穴がこんな感じで開くことになります。

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骨の中のインプラントと一緒にみて確認してみます。

このあとドライバー用の穴を開けて、ミリングマシーンにセットして削り出しを行います。

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今回はまだ仮歯の製作ですのでPMMAというレジンの素材から削り出しました。

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インプラントが骨に定着してから2次オペを行いインプラントの頭を装着しますが、その頭がハマるように穴を開けています。

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歯肉の部分はコンポジットレジンを盛り上げて表現します。

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仮歯なんですが一応2色の歯肉色のコンポジット使いました。

ただの自己満足ですね。

このあとキレイに研磨して歯医者さんに送りました。

インプラントを骨に立ててから即時で仮歯を入れる方法もあるらしく、多分今回はそういう方法で使うのかな?

この記事の写真歯デザインしながらのスクリーンショットですが、歯医者さんにも同じものを送っています。

デジタルの強みとか怖さはここかもですね。

技工士側としてはきっちり仕事したからね、という証拠が残ります。
これで実際の口腔内に合わなかったら歯医者の責任か? はは



 

宿題

あいかわらず強制的引きこもり生活が続いています。

といっても、全然ヒマにしているわけでもなく、いろいろと後回しにしていた宿題を片付けています。

緊急性のない仕事はどうしても後回しあとまわしで・・・

こういうときでもないとやらないですね。

ここ二日がかりでやっと終わらせたのが歯科の練習用モデルの3Dデザイン。

歯学部の学生さんなんかが歯を削る練習に使ったりします。

それぞれの歯は抜き差しができ、通常は単品で買い足して交換できるようになっています。


依頼の内容は、市販のやつは咬合面形態がシンプルすぎて気に入らないのでもっと自然な形態でということでした。

市販の模型と互換性を持たせるように、歯根にあたる部分は市販品と同じ形でということでした。

3Dプリントの材料は歯を削る練習にどうなのか試していませんが、そのうちフィードバックがあるかな?

同じようなモデルはすでにデザインデータを作ったのですが、今回は上記の工夫に加えて、プリントした後の抜き差しが簡単にできるよう、歯根と土台の間に0.1mmのクリアランスを作っています。


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ポリゴンを表示させるとこんな感じ。


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だいぶデザインソフトにもなれてきて、ポリゴンも均一で必要以上にデータが重くならないようにしています。


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3Dソフト上で色をつけることも可能。


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下顎の咬合面です。

上下のデータはこちらで見ていただけます。
興味がありましたら・・・
https://www.cgtrader.com/3d-print-models/art/sculptures/dental-sample-model-e2b05995-2316-431b-84f6-babc7ad1cd59

ジルコニアのブリッジ

一応ほぼ毎日、歯科技工所で仕事しています。
といっても実際歯を作ることはほとんどなくなりましたが・・・

それでもたまに、ややこしい仕事がくると出番が回ってきます。

今回はCADCAMによるジルコニアの削り出しで作るブリッジです。
せっかくなので写真もあげてみますね。

Screen Shot 2019-12-06 at 10.46.14

上顎のケースで元々は無歯顎ですので総入れ歯を使われていました。
そこにインプラント6本植立して土台とし、その上に固定式のブリッジを作ります。

Screen Shot 2019-12-06 at 10.26.59
前から見たところ。

Screen Shot 2019-12-06 at 10.28.02

この上にブリッジをデザインしていきます。
CADといわれる部分ですね。

Screen Shot 2019-11-26 at 17.09.00

ブリッジは最終的にインプラント体にネジ止めされます。

写真の黄色の棒は、そのネジを締めるときにドライバーを挿入する穴となります。

インプラントの植立は顎の骨の状態に左右されるために、位置や方向が思うような状態で植立できないことが多くあります。

この症例でもネジへのアクセスホールが表に出てきてしまったり、歯の見た目を損なう位置にあります。

そこで追加の手間がかかりますが、ブリッジ本体をねじ止めした後に、さらにその上から冠を被せるタイプにしました。

他にも方法はいろいろあるのですが、ここら辺は歯科医師の好みに左右されます。


Screen Shot 2019-11-26 at 17.12.17

これはブリッジ本体の裏側ですね。
穴には本体完成後、インプラントの金属パーツを埋め込みます。


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一足飛びですが、デザインデータからCAMであるミリングマシーンでジルコニアの生材を削り出します。
ここらへんは自動ですが、約4時間強かかりました。

これを外枠から切り離して、基本的な色を塗布して染み込ませていきます。
これをやらないと単なる真っ白の歯になったりしますし、後から表面に更なるステインで着色はできますが、やはり奥行きと自然感が出ません。

このあたりシリコンエピテーゼに通じるものがありますね。


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ピンクは歯肉色、黄色が象牙質の色でブルーとか緑に見えているのがエナメルの透明感を出す色です。

この状態ではジルコニアもまだ壊れやすいので神経を使う作業です。

この後焼結炉に入れて1500度くらいで、トータル10時間ちょっと焼結させると硬いジルコニアに変身します。


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無事焼結が終わったところです。


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歯肉の部分はさらにセラミックスを薄く盛り上げて焼成します。
写真はセラミックスのパウダーを塗布した状態で、4色のパウダーを使いました。


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今度は別の焼成炉で焼きます。


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焼き上がりの状態。

この後形を整えて最終的なステインでさらに特徴づけをしていきます。

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材料は全く違いますが、やはりシリコンのエピテーゼに通じるものがありますね。



3D デザイン 教材

あるところの依頼で上下顎の骨をベースとしたモデルのデザイン。

歯科のセミナーで、機能的なクラウンのためのワックスアップという向きに使うらしい。

せっかく時間もかけたので写真だけでもここにあげとこう。


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一応咬合も正常咬合のガイドとなるようにいったん歯冠形態を作った上で上下の位置を調整し、そこから歯を削ってクラウンをかぶせる形態に作り直しています。


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一応は骨をモデルにしているので、解剖学的にはクラウンのマージン設定が深すぎるのですが、これもご要望なのでしょうがない。
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すべての歯は根っこの形をシリンダー型にして、がたつきなく抜き差しできるようにしています。

セミナーの先生はかつての教え子。
うれしいのはもちろんですが、歳を取っていくことをひしひしと感じさせられます・・・
顔面補綴マニュアル  やさしい義眼の作り方 How to make artificial eye
How to make Ear Prosthesis 英語版
エピテーゼのつくりかた 耳
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村井 さむ

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日本でのプレッシャーを逃れフィリピンに移住してはや10年、まだ生きてます。やさしい義眼の作り方

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