やさしい義眼のつくりかた How to make artificial eye and prosthesis

顎顔面補綴という仕事を通じて身につけた義眼やエピテーゼの製作技術やその背景をご紹介。 あまり広く認知されていない技術ですが、どこかで誰かの役に立てればいいですね。 フィギュアなどの趣味にも生かせるように、なるべく特殊な材料や 道具を使わない方法も お伝えできればと思います。 How to make artificial eye and prosthesis.

How to make artificial eye and prosthesis.

エピテーゼ

旅立つおっぱい

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 しばらく頭の中に引っかかっていた仕事。
いつまでも納期を伸ばすこともできないし・・・ということでここ3日ほど集中して仕上げた2個のおっぱいです。

 そういえばこのおっぱいが自社開発製品の最たるものかも。
乳房の作り方や形、材料、さまざまなことをこの20年間やってきました。

最近さらに変えたのがシリコン。
どうしても揺れるおっぱいが作りたいという、欲望だか願望だかわからないことを漠然と目標に開発してきたものです。

 ここ数年はほぼ完成形かなと思えるところまで来ていましたが、それでも細かい不満点があって。

できればもっと柔らかいものも作り出せるシステムにしたい、まだまだ残る小さい気泡が入らないようにしたい・・・

 このシリコンを開発するために、家の中サンプルや試作品のシリコンで溢れかえっています。

そんなこんなで、余命幾ばくもないこの頃になって、ほぼ満足のいくシリコンができたような気がしてます。

気がしています・・・というのはやはりそれをどう使って引き出すかというのがまだ残っているからです。

 シリコンが変われば粘稠度が違ったり、色が違ったり・・・もちろん重合時間とかも変わります。

さらに欲張ってシリコンの調合や組み合わせでいろんな柔らかさが作り出せるようになりたい。

・・・そんなこんなが、なんとなくこの3日で光明が見えてきました。

写真の2個のおっぱいは国外からの注文ですので、もう飛行機に乗ってる頃でしょうか。

・・・ただ・・・問題があって・・・

もうそろそろ仕事する気力体力が少なくなってきてるんですよね。

そろそろバトンタッチを考えて、というかそういう方面で動き始めています。


指つづき

 最近指のエピテーゼの問い合わせが多いのですが、なんでしょうね?

耳のエピテーゼが続く時期もあれば、鼻が続いたり。

最初はインスタやフェイスブックに載せる写真に影響されているのかと思ってましたが、そればかりでもないみたいだし・・・


  そんな指続きの最近ですが、ほかにもやることが詰まっていて、昨日の患者さんがキャンセルになって少しほっとしました。

持ち越しなんで結局やらないといけないことには変わりなく、まぁ、ドタキャンに近かったので指のほうは用意できてたから次が楽になりますね。

 前回の指から思いついたことを織り込んでみて、結果がよかったので今のところスタンダードな手法になる勢い。

ちょっと硬めのシリコンを使って中に空洞を設ける方法。
これだとじょうぶで軽いエピテーゼになります。

さらに中の空洞のつぶし加減で常に内部が陰圧になるため吸着維持も追加で見込めます。・・・というようなことはめんどくさいので詳しく書きませんけど。

硬いシリコンを使うとその分締め付け具合を変えないといけなかったり、辺縁付近の薄さにも関係してくるしと、意外に指は考えることが増えたような気が・・・耳とか鼻だとどうしてもやわらかめのシリコン一択になってしまいますので・・・そんな多分無駄になることのほうが多いことをあれこれ考えながら日々作っています。
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写真はシリコンの重合が終わって型を開いたところ。型がきっちりできていればバリもごく薄くて後の作業がずっと楽になります。

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 型を作る時点での注意点というのももちろんあるんですが、結構石膏の品質に左右される部分があります。

フィリピンではお店で小分けしてパック詰めした石膏とかが多いので、中にはあまり品質の良くないものも。

埋没時に表面に水が浮き上がってくるやつとかはダメダメですね。

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日本だときちんとした製品さえ買えば常に同じ品質で、というかその前にどの製品買っても一定レベル以上のものばかりですよね。そろそろまた日本が恋しくなってきました。

肩の荷 Part2

 やはり前回からちょっと間が空いてしまいました。

2つ目のやっと降りた肩の荷は指のエピテーゼ。


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ご覧のように特に人差し指が残っている部分がごく小さい・・・

2本連結してバンドを手のほうに回らして固定しようか、とおもいましたがダメ元でいつもの吸着維持で勝負してみようとやってみました。

 いちおう2本独立した形で完成させて、それなりに吸着維持もしてくれました・・・

でも、ご本人の感想が「重い・・・ なんか持っているような感じがする」

今までなかったものが装着されたわけで、しかも維持部はごく小さな範囲。

エピテーゼ自体も中身が詰まったものなので、やはり重さを感じるんですね。

維持部の小ささもあいまって落っこちてしまいそうな不安感もあるみたい。

とりあえずしばらく使ってもらって様子を見ようとなりましたが、後日やはり連絡があって・・・

「ヘリがちょっと破れてきました。あと人差し指の方が落っこちてきます」

若い女性でもあったので感触にこだわり柔らかいシリコンを使ったのもあるし、吸着維持を最大限に発揮できるようにとヘリを絞りすぎたのも要因ですね。

とりあえずもっと硬くて丈夫なシリコンで作り直し。

そのときに思いついたのが、中身を空洞にして軽くしたらちょっとマシになるんじゃね?と・・・

詳しい製法は割愛しますが、結構脳汁搾り出しながら考えだしました。


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当初はこの装着側の穴は塞ぐつもりでしたが、できてみたら意外に良さげ。

そのままオープンな状態にして仕上げました。

・・・で、実際に装着してみたら「あー軽くなっていい感じ」とのご意見。

さらに副産物として辺縁は絞ったままでしたが、この穴のおかげで装着時に広がりやすくなってみたい。

さらにさらに・・・装着した後に指本体をちょっとつまむと、空洞があるおかげで陰圧になり吸着力がましたようです。

これはご本人の感覚を聞くしかないのですが、「ほんと違う、これならいいかも」とのことでした。

 これでいったん完成形かなと思っていましたが、またしばらくしたら「ヘリが破れました・・・」

装着の仕方にもよるのですが、もう一段階硬いシリコンで作り直すことにしました。

硬い分なんか感触もごわっとしそうな気がして、さらに中の空洞を大きくしようかと・・・

一旦前回の作り方を踏襲して人差し指と中指作り直しました。

 こういう脳汁搾り出し系の仕事を抱えているときには、夢に出てくることがよくあります。

結構四六時中考えていますからね。

 この時は患者さんが来られる前日の夜に2本完成させて午前様で就寝。

でも3時頃目が覚めてまたあれこれ考え出すと眠れなくなりました。

 そのときにあるひらめきが・・・・・!

それから2時間ほど眠って、また早朝からそのアイデアを盛り込んで作り直し。

 最終的に患者さんもニッコリして帰られました。

いや、この製法は特許取れるかも、とか考えながら長い指のエピテーゼの時には自分のスタンダードになりそう・・・・


・・・と昨年末から背負ってきていた荷物を下ろすことができました。

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写真はステイン後1回目のコーティング時のものです。


ちょっと肩の荷がおりました Part1

 昨年末から地味に懸案だった症例が2つあって・・・

ひとつは16歳女性の眼窩のエピテーゼ。  

この仕事、患者さんや付き添いの方なんかと話し込むことが多いんです。
ステインしている時とか、コーティングしたり仕上げの作業をしているときに待っていただく時間があるので、そんなときに色々と患者さんの背景を窺い知ることができます。  

クリニックとはいえ土日しか患者さんを受け入れていないし、すべて予約制です。

1日につき作業する内容によりますが最大3人、通常は午前と午後でひとりずつというやり方なので、一人一人にかける時間が必然的に長くなります。  

それくらいの付き合い方をしないといけないようなところもあるんですよね。

とくに眼窩のケースですと、患者さんの自然で明るい表情を引き出してコピーしないと、と思うし・・・

そんだけコピーできる能力があるんかよ?といわれそうですけど、表情の変化を微妙に感じ取ってしまうためにできればなんとかしたいなと。  

 そんな眼窩のケースが件のケース。 16歳というまだまだ女の子という感じの小柄な子。

経済的にきびしい家庭で、かといって腫瘍で膨れ上がっていく顔面を放っておくこともできないし、ということでフィリピンの国立小児病院で治療。

さるボランティアグループの援助での治療とエピテーゼの製作でした。  

 確か途中経過は以前のブログで何度か載せたような気がします。

遠方から来られているのと、交通費もままならないということなので結局私が直接面談できたのは都合4回でした。

・・・で、最終の装着は小児病院の担当医がするということだったので、最後の調整はわたしのほうでは神頼み的な状態。

それでもなんとか完成させて納品。

接着剤を継続して買うことができないので、接着剤を使わずにエピテーゼを装着できるようにとの依頼でしたので、めがねに付随する形にすることにしました。

 脳汁を搾り出しながら綱わたりでつくったのがなんとか無事にセットできました。

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メンテナンスを考えて、というか位置がずれていた時の微調整ができるようにと磁石でメガネとは接続するようにしたのですが、やはり眼窩の形状的にずり下がってくるということでした。

で、結局磁石の部分でメガネとは接着しました。


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いま写真で見ると微妙に右側が上がってますね。

ひとまずこのケースはひと段落です。

もう一つのケースが今日日曜日にようやく区切りができたケースで、指の症例です。

ちょっと長くなったので次回に続きます・・・・たぶん

脳汁出まくり

 ひさしぶりに脳汁が出まくるほど、寝ても覚めても一つのことを考えていました。

 先般からちょこちょこ写真あげたかもですが、眼窩のエピテーゼがまだ終わってなくて…

眼球のカーブに沿った瞼の膨らみが気に入らず、アクリルの眼球から作り直しに始まり、キレイな3次曲面の表現がうまく行かず、ワックスからやり直すこと数度。

 シリコン詰めるとこまで漕ぎ着けても今度は重さが気になるし….

というのも、今回の眼窩のエピテーゼは接着剤が使えないケース。

これは患者さんの経済的理由で、接着剤を継続して購入するのが難しいせいなんですが、そのためメガネでサポートするタイプにすることは早くから決まっていました。

 問題は軽量化とメガネとの接続。

ワックスと埋没も見直してなんとか軽量化でき、だいぶ先が見えるようになってきたのですが最後の砦、メガネとの接続。

出来れば一体化するのではなく、先での調整とか位置の微調整ができるようにしときたいなと。

鼻パッドの部分は小さな磁石をエピテーゼとメガネの両方に埋め込みました。

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問題はこめかみ側。
こちらは1cmほどメガネのツルとエピテーゼの間が開いてます。

 ここから先に進まず数日経過してしまいました。

 今朝ラボに出てきてから矯正に使うワイヤーを試しに屈曲。

そういえばオレって技工士だったじゃん、と思いながら思いつくまま曲げていきました。

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 エピテーゼ側の磁石はなるべく目立たないように小さい磁石を埋め込んでいますが、メガネ側に同じ大きさを使うと位置が限定されてしまいます。

ツル側に巻きつけたワイヤーは前後に動かせ、ワイヤーは少し曲げられるとはいえ、もう少し余裕を持たせたい。

そこで大きめの磁石をツル側にはつけました。

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ここも皮膚の色に合わせたシリコンでカバーするか….

 あとは結果が良ければいいのですが….

おっと、その前に苦手な睫毛植えの作業があるんだった。


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村井 さむ

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日本でのプレッシャーを逃れフィリピンに移住してはや10年、まだ生きてます。やさしい義眼の作り方

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