やさしい義眼のつくりかた How to make artificial eye and prosthesis

顎顔面補綴という仕事を通じて身につけた義眼やエピテーゼの製作技術やその背景をご紹介。 あまり広く認知されていない技術ですが、どこかで誰かの役に立てればいいですね。 フィギュアなどの趣味にも生かせるように、なるべく特殊な材料や 道具を使わない方法も お伝えできればと思います。 How to make artificial eye and prosthesis.

How to make artificial eye and prosthesis.

2020年10月

ハプニング つづき・・

前回のちょっと美談っぽいはなしで終わっても良かったんですが、そうばかりでもないというはなしも少し・・・

通常わたしのところに来られるかたは、欠損や変形について何かしらの根強いコンプレックスを持っています。

これは生まれつきの小耳症でも、途中から事故や病気で欠損切除の場合でも同じですね。

何度か赤ちゃんの小耳症のケースは手掛けたことがあります。もちろん赤ちゃんにはそういうコンプレックスはありません。

それでもエピテーゼを作りたいというのはおもに親御さんの思いですね。
一応エピテーゼのメリット・デメリットもよく説明しますし、とくに赤ちゃんや子供さんのばあいは成長につれて作り変える必要もあることなども説明いたします。

少しはなしがそれましたが、生まれつきの欠損や変形の場合と、途中から病気や怪我で欠損した場合では若干様子が変わってきます。

病気や怪我事故で失った場合は、今まであったものを失うため、当面のショックはやはり大きいようです。
病気での場合は切除することで命が助かった、という考え方ができますが、しばらくするとやはり喪失感が出てきます。

また今までの人間関係や仕事関係などなど、影響がだんだんと感じられてきます。

くだんの鼻のエピテーゼの女性も、ミスコン常連さんだったことでも想像できるように外見にはそれなりに自信があったはずです。

それを失った喪失感はやはり想像に難くありません。

わたしのところに来た当初は、この状態が少しでも改善できるのなら、という藁にもすがる思いだったろうと思います。
型どり時に撮った写真を今見返しても、写真に撮られたくない、みられたくない感がひしひしと伝わってきます。

ワックス試適の段階になると少し希望を持ち始めます。
希望というよりここまで回復できるのなら、という安堵感みたいなものを感じるのだと思います。

ついでシリコンになったものを試適してステインしていく頃には、お互い当初の気恥ずかしさも少なくなり会話が増えてきます。

自身の希望や要望もだんだんと出てきます。

最後のインストール時には付添の家族が一番喜んでくれますし、それにつれて本人も少し笑みがこぼれてきます。

ここまでで終わることができれば概ねよかったよかったですみますが、エピテーゼの仕事で難しいのはここからかもしれませんね。

くだんの鼻のエピテーゼの女性ですが、フェイスブックに写真を上げるのはかなり久しぶりであったはず。

そこまで回復することができ、またその助けになることができたのはうれしいことでした。

彼女の友人知人のコメントも心あたたまるものが多かったのですが、中には心無いコメントも出てくるようになりました。

フォロワー数2万人近くということでもわかるように、かなり人気のある女性なんだと思います。
それにたいする羨望や嫉妬みたいなものが裏側にある人もいるようですね。ざんねんながら・・・

エピテーゼを作って装着したらそれで終わり、ということにはならないし、咀嚼嚥下の機能回復にもまだ時間がかかりそうです。
彼女の心理状態も経過観察していかないといけません。

 エピテーゼが顔のパーツである場合、本人の心理状態や健康状態で表情がどんどん変わるのはいつも経験しています。

眼窩の場合などワックスで正常側をみながらコピーしますが、通常このときはマイナスな感情であることがほとんどです。

そのマイナスの感情時の表情をコピーすると、悲しい表情のエピテーゼになってしまいます。

色々考えすぎなんでしょうかねぇ・・・・・

すみません今回はとりとめのない書き方になってしまいました。

そんなこんなの患者さんとの経験にはものすごく貴重なものがおおくあって、エピテーゼの技術もそうなのですが、こういった経験を少しでも分かち合いたいなと。

そういう思いの本を今書いています。
相変わらず遅筆なので出版がいつになるかまたわかりませんが・・・

ではでは

ハプニング・・・

”皮膚の透明度”つづきです。

昨日このブログの更新をしているときに、嫁さんからFBのメッセンジャーでメッセージが届きました。

今は写真や書類も添付できるので便利ですよね、隔世の感があります。

・・・で、そのメッセージを開くと若い女性の写真。浴室か洗面所みたいなところで撮られたような背景で、裸ではないのですがタンクトップ?みたいな服装です。

女性の顔に見覚えが無いので、「俺なんかしたっけ?」とどきどき・・・

続いて何やらテキスト入力中という表示が出ているのですが、今度は職場のスタッフが話しかけてきてその対応でつづきが見れない・・・

スタッフの話には上の空で、頭の中はフル回転・・・

ようやく目前の仕事を片付けて再度メッセージを読むと、昨日送った例の鼻のエピテーゼがもう届いたらしく、つけてみたところの写真を患者さんが送ってきたのだと・・・

改めて写真を見ると自分で作った鼻と唇にはそういえば見覚えがある。
・・・けど、写真の中の女性は軽く化粧もして、髪型も変えているためクリニックで会う彼女とは全然イメージが違うのでみおぼえがなかった。

 フィリピンの宅配業もコロナ以来需要が増えているようで、鳴かず飛ばずの他の業種に比べて急に成長したんじゃなかろうか。

患者さんの家は結構離れたところなんのだけれど翌日には配達されたようで、すでに日本並みなのかも。

それはそうと、患者さんのコメントはとくになく、受け取ったということで写真を送ってきただけらしい。

ただ、きれいにメークアップし、髪も整えて撮られたいわゆる自撮りショットは色々物語ってくれていてちょっと感慨深いものがあった。

 通常患者さんとの最初の面談ではカウンセリングと今後の予定、そして納得してもらったら型どりという流れになります。

型どりの時点でいろんな記録のために写真を撮りますが、撮られるのに抵抗があるのは常に感じます。

ましてや、この患者さんのように若い女性で、ミスコンの常連だったような方の場合はなおさらでしょう。


 嫁さんが送ってくれた彼女のプロフィールでFBを見ると、彼女のフォロワーは1万9千人以上。

よくわからないですが、多分この数は一般人としてはかなり多いはずですよね?

ざっとFBのページを見てみましたが、くだんの写真が久しぶりのポストだったようで、フォロワーさんたちのコメントもすでにかなりの数。

 最初にわたしのところに来たときの写真、ワックス試適時の写真、ステイン時の写真とあらためて見返しました。
彼女の精神状態の移り変わりが感じられて、少し目頭が熱くなる思いをしました。

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送られてきた写真をかなーりトリミングして載せておきます。

手で頬を抑えたポーズは鼻から胃まで通っているチューブを隠すためですね。

 エピテーゼと一緒にリハビリ用の義歯を送っていますが、これで流動食でも食べることができるようになってくれればチューブもはずせるでしょう。

機能回復を考えるとまだ先は長いのですが、エピテーゼの仕事ですこし嬉しい思いをした一日でした。



皮膚の透明度 その後・・

エピテーゼを作るサイクルがいつの間にかだいぶ早くなっています。

例えば耳のエピテーゼで接着剤でつけるタイプなら

1.型どり
2.ワックス試適
3.シリコン試適→ステイン→コーティング

しばらくは3回の患者さんとのミーティングで終わるようにしていました。

以前はワックス試適で2回ほどかかったり、最終難関のシリコンのステインに到達する前にシリコン試適時点で再度ワックスに戻ったりと、5,6回かかるのが常だったように思います。

でも、中には遠方から飛行機に乗ってホテルに宿泊されて、という方も見えるためなるべく回数は減らしたいし、ましてや自分の至らなさで余計に来ていただくのは論外。

ということで手慣れてきたことも大きいのですが、最短3回で済ませるようになってきてました。

ただ・・・・3回目は正直いって疲れます。
ステインから最終の仕上げまで、患者さんにお待ちいただいてやるのはかなりの集中力がいります。

終わったあとは通常バタンキューとしばらく寝てしまうのが通例。

手術後のブラックジャックの高いびきが僭越ながら理解できるこの頃。

しかし最近また見直して、ステイン後の仕上げを急がないようにしました。

というのは、コーティングをする時点でステイン後のエピテーゼシリコンがよく乾燥していないと結果が思わしくありません。

また、患者さんの皮膚の上で最終のステインはしますが、その後また時間を置いてじっくりムラやアラを修正してから仕上げをしたほうが絶対いいですね。

とくに目の疲れが激しいこの頃、この仕上げまでは時間をかけたほうがいいなと。

・・・で、最近のタイムラインとしてはステイン後はいったんお帰りいただく。
その前にシリコンに置き換わったエピテーゼで、装着の練習や説明はしておきます。

近くの人であれば最終のインストールに来ていただいてもいいのですが、とくにコロナ以降事前にラピッドテストしてからじゃないとクリニックに入れなかったり、防護服などの余分な出費が都度かかってしまいます。

そのため仕上げが終わったエピテーゼは、こちらの宅配便みたいなもので送る方法を試しています。

最後の結果を自分の目で見れないのは少々不安でもありますが、インストール後も色のタッチアップやメンテナンスで後日会う機会はあります。

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そんな長い前置きですが、これもそのうちのひとつです。

色の難しさに、やはり生きているものが相手ですのでどうかすると色合わせをしている段階で色がどんどん変わる場合が多々あります。

とくに若年代で色が明るめの人はちょっとした温度差や、感情の変化で皮膚の色が変わります。

この鼻のエピテーゼの方も23歳女性、色白で例の青みがかった透明感のある肌です。

ステインで色合わせをしている部屋のエアコンが結構強かったので、どんどん肌の色が白くなり反面エピテーゼは赤いまま取り残されていきます。

もうこういうところまで気にしだすときりがないんですけどねぇ・・・

・・・で、結局色の調整をしながら都合8個作ってしまいました。

その中の3個が上の写真で宅配便で送る前のものです。
色味を微妙に変えて作ってあるので、その時の環境で一番近いものを使ってね、と説明しておくりました。

IMG_2123

このエピテーゼを送ったのが昨日でしたが、実はこれを書いている先ほどハプニングがありまして・・・

ちょっと歯の仕事をしながら並行して書いてるので眼が疲れました。
後ほど多分仕切り直しして続きを書きます・・・

待て緊迫の次号!!(少年ジャンプ風)



皮膚の透明度

IMG_2123

写真には6個鼻のエピテーゼがうつっていますが、実際には都合8個作りました。

なんでそんなに作っているのかというと、納得がいかないから・・・・

通常形を変更するのに何度か作り直すことはあります。
こちらが良かれと思っても、患者さんは別の好みがあったり、同じような内容でも患者さんごとに様々な要望があるので答えがひとつではない難しさがあります。

この鼻のエピテーゼの場合は形とかに変更はないので、型は同じものを使っています。

患者さんが若い女性で青みがかった皮膚の色。
青みがかったと言っても顔色が悪いわけではなく、色白の若年代の皮膚によくある健康的な肌です。

長年一緒にこの仕事のパートナーをしてくれている嫁さんに、その青みについて説明しても
「どこが青いの?」と言われてしまいます。

そういえば血管は皮膚の上から見ると緑とか青っぽいのに、手術中に見る血管は白っぽいのもなんででしょうね?

この血管の青みを微妙にひらって、青みがかった皮膚に見えているんだと思います。

あと透明感という表現しか言葉を知らないのですが、化粧品会社のCMの影響なのかな?

実際に若年層とシニアでは透明感としか表現しようのないものがあります。

別に表面に透明な膜が貼っているわけではないのですが、強いて言うなら細胞の水分量の違いかな?

歯科の仕事では歯の色をとるのにシェードガイドという色見本があります。

A1とかB3とかだいたい10数色ありますが、これでとった色は該当する材料で作れば基本的に色があうようになっています。

A1の場合A1のセラミックスを盛り上げればA1になる、みたいな感じです。

エピテーゼの場合は自分でこの色見本を作らない限り、歯科のようなスタンダードがありません。

おまけにその透明感というのは目で見て感じるしかなく、ちょっと色に関してはまだまだきりがない世界です。

エピテーゼの材料となるシリコンは通常半透明の乳白色。
これに基礎色という不透明度の強い肌色の色素を混ぜます。
そのあと青赤黄の三原色を少量加えて色味を調整していきます。

技術者によって色々方法があると思いますが、わたしの場合はこんなかんじです。

透明度はこの基礎色の量で変わります。

シリコン10gに対して基礎色何滴みたいな大体の基準があるのですが、エピテーゼの部位や厚みによってもわたしは変更していますし、そのあたりの基準値とか根拠は正直ありません。

いわゆる経験値というかヤマ勘ですね。

まだまだそういう経験値が足りないのか、無駄なこだわりなのか、こうして悩みながらたくさん作る羽目になってしまうことも多々・・・


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この写真はステイン無しで型からはずしてバリを切り取っただけのものです。
微妙に色味を変えているのがおわかりいただけるかな?


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光源を変えてみるとまた見た目が変わるので悩ましいところです。

肌の上でよく色があったかなと思っても写真に撮ると違って見えたり・・

一番アラが見えるのはやはり太陽光です。


IMG_2124

一番手前は最初の頃に作った不透明度が気になるエピテーゼです。

朝の光の中で見るとファンデーション塗った厚化粧的な感じに見えてしまいます。

このエピテーゼは接着剤で装着するタイプですので、なるべく軽くないといけません。

極力薄く作っていますのであまり不透明な基礎色の割合を減らすと・・・・・

といろいろエピテーゼ作りは悩みが尽きません、ということをいいたかっただけです。

デンタルラボラトリーin the Philippines

このブログに来られる方の中には技工士さんが多いようなので、フィリピンの歯科事情でも少し。

だいぶ昔にフィリピンに縁ができた頃、フィリピンの歯科事情について調べてみたことがありました。
ちょうどインターネットも一般に浸透してきた頃でしたし。

それまでフィリピンについてのイメージや情報というと、やはりフィリピンパブがその窓口になっていた時代でもあります。

日本に働きに来ている若い女性たちの入れ歯率の高さにびっくりしたのもこの頃でした。

そういうことが大いに関係しているんだと思いますが、今でもフィリピンはすぐに歯を抜くというイメージが強いんだと思います。

フィリピンで仕事して生活するようになってはじめて色々見えてきたことも多いのですが、やはり貧富の差は歴然としてあるということ。

当時日本に出稼ぎに行っていたピーナたちはおおむね裕福ではないレベル。

母国で受けてきた歯科治療も自ずとそういったレベルになるので、フィリピンではすぐに歯を抜かれるというイメージが定着してしまったのはしょうがないのかも。

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このケースは先々週手掛けたものですが、インプラントの上にジルコニアのブリッジを作っています。
上顎は残存歯無しで下顎は自身の歯が残っていますが4本ほど同様にインプラントとジルコニアクラウンの組み合わせです。

治療した歯科医院もよく知っていますが、多分この患者さんは日本円で600万円ほど歯払っているのではないかと思います。

こういう症例が結構多いんです。

たまに日本からの患者さんをお見かけすることもあるのですが、口の中にいわゆる銀歯が多いのが今となっては新鮮に感じます。

日本の保険制度のいいところでも悪いところでもありますね。

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この写真はわたしの席から見える技工所の風景です。
ポーセレン用の部屋ですが、この部屋は全体の一部です。

フィリピンの技工士さんは流れ作業的に分担されているので、模型ばかり作るところ、ワックスアップ、金属調整、ポーセレン、形態修正、デンチャー、CADCAMと部署が分かれています。

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これはCADCAMの部屋ですが、最近手狭になってきたので以前の研修室をデザインルームに変更したばかりです。

写真にはスキャナーが2台うつっています。

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こちらがちょっと前までのCADCAMルームで、今は2台のミリングマシーンとシンタリングオーブン3台置いています。

これらだけ見るとレベルが高そうですが・・・・

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いまだに許せないのがこういった大きな症例でも、このレベルの咬合器を平気で使うこと。

技工所立ち上げの当初からマイクロスコープと、もうちょっとまともな咬合器を買ってくれと要望してきましたがまだまだ十分な数がありません。

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こちらは3Dプリンターです。
先日新しいアイデアを提案して2台追加で別のタイプのプリンターもリクエストしました。
どうやら要望は通ったようですので、もうすぐ追加されるはず。


というような現状です。
このラボは、なにもない空間にデザインからはじめて作り上げたラボで、そろそろ10年になろうかというところです。

ラボのデザインだけで50枚近くパソコンでデザインした覚えがあります。
材料、機械、人選すべて任されたのでなかなかおもしろい経験でした。

今では80名ほどのスタッフがいますが、多分フィリピンでのローカルラボとしては大きい方だと思います。

外国資本のアウトソーシングラボにはもっと大きなラボがいくつかあります。

思いつくままざっと書いてみましたが、もうすでにこちらの世界にどっぷりハマってしまっているので、日本との相違なんかは忘れてしまっていますね。

もしご質問とかありましたらコメント下さい。




顔面補綴マニュアル  やさしい義眼の作り方 How to make artificial eye
How to make Ear Prosthesis 英語版
エピテーゼのつくりかた 耳
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村井 さむ

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日本でのプレッシャーを逃れフィリピンに移住してはや10年、まだ生きてます。やさしい義眼の作り方

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