やさしい義眼のつくりかた How to make artificial eye and prosthesis

顎顔面補綴という仕事を通じて身につけた義眼やエピテーゼの製作技術やその背景をご紹介。 あまり広く認知されていない技術ですが、どこかで誰かの役に立てればいいですね。 フィギュアなどの趣味にも生かせるように、なるべく特殊な材料や 道具を使わない方法も お伝えできればと思います。 How to make artificial eye and prosthesis.

How to make artificial eye and prosthesis.

2017年08月

犬の患者さん

先日からかかわっている犬の患者さん。
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兎唇の症例で生まれつき上顎の口蓋に穴が開いているため、食べ物飲み物が鼻のほうに入ってしまうため、常に鼻水をたれています。
おまけに飲み込むのも難儀らしく、栄養状態が悪いのはやせたからだと抜け落ちた毛で容易に見て取れます。


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これは先日紹介した写真で、現状はこの写真撮影の後、獣医さんが軟口蓋の部分は縫い合わせてくれました。

型どりは縫い合わせる前に採ってしまっていたので、石膏の歯型上で修正して、オブチュレーターという穴をふさぐものをシリコンで作りました。


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穴の奥のアンダーカットが大きいため、これを利用して維持にしようと考えました。
歯型は青色の台座からはずすと、縦に二分割できるようにしています。

実際にシリコンをつめるための型は別に作りました。
穴の部分をそのまま満たすように作ってしまうと、挿入が難しいだろうとの判断です。

今回は念のため麻酔をかけた状態で装着しましたが、普段には麻酔なしで飼い主さんが取り外しできるようにしておかないといけません。


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こちらは裏側で、スリットを入れています。


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歯型に装着してみたところ。
辺縁を密着させるためにエピテーゼを作るときのテクニックを駆使しています。


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知らないところでおおごとになっているようで、テレビ局まで来ていました。

麻酔で眠る犬のそばに立っているのがイケメン獣医さん。


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毎度のことですが、入れてみるまではいつもハラハラです。

今回は予想したことがすべていいほうに当たってすんなりいきました。

簡単に装着取り外しができますが、最後の問題は麻酔からさめた犬がどういう反応をするか、嫌がってはずそうとするのか、食べ物を食べたときはどうなのか・・・・


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麻酔からさめるまで横になっています。


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もう一頭向こうに見えるのが顔面に穴の開いた別の患者さん。

麻酔からさめてすぐ、獣医さんがえさを与えていました。
特に違和感を感じている様子もないし、カメラが向けられスタッフ一同注目する中がつがつとえさを食べていました。

飼い主さんいわく今までこういう風にスムーズに食べたことはないのだとか。
鼻からの逆流もないし、食べ終わった後口の中を検査してもきれいな状態でしたので、これは珍しく大成功の症例といっていいようです。

ちょっと感動的な場面でもあり不覚にも食べているところの写真は撮れませんでした。

3D スキャナー

歯科のほうですがCADCAMのコンベンションに参加するために、シンガポールに行ってきました。

会場は以前よりもせまくなり、参加企業も少なくなってはいるものの、逆にスキャナー、ミリングマシン、3Dプリンターは多く展示されていました。

大体スキャナーはシェアを大きく持っているメーカーがOEMであちこちに出しているのが目に付きました。

もはや時代の主流になりつつあるので、各企業自社開発より手っ取り早いOEMで間に合わせているんじゃないかと勘ぐってしまいます。

機会があれば前からやってみたかったのですが、口腔内で使うスキャナーがありまして、これを顔面補綴の型どりに使えないかと・・

以前にも触れたような気がしますが、眼窩を含むエピテーゼなどでは、似せるべき反対側が、型どりのときには目を閉じた状態になってしまいます。

そのため石膏模型上では写真を参考にしながら、ある程度のところまでワックスで造形し、最終的な調整は患者さんの顔の上で近づけていきます。

ここでかなりの時間と冷や汗を消費してしまいますので、3Dスキャナーでコピーできればと常々思っていました。

反対側を反転してプリンタでプリントすることができれば、造形も楽になります。

ということで展示されている口腔名内用のスキャナでシレっと自分の指をスキャンしてみました。

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ちゃんと色まで出てくるのでかなり使えるのではと思います。

問題は価格ともう一つ、眼窩の型どりの代わりには今のところ難しいようです。
というのもスキャン時に出てくる光がかなり強いので、正常な目のほうには型どりの間開けておくことが不可能のようです。

今回現物の展示はありませんでしたが、顔全体をスキャンするスキャナもあるので、こちらならいけそうですね。

ただ、義眼のためのソケットの型どりにはやはり従来の型どり法じゃないとダメですね。

型どり材である程度粘膜や軟組織を押しのけて採る必要がありますから。

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写真は3Dプリンタでプリントした歯型と、黄色いのは金属で鋳造するときの原型になるもの。

プリントする材質をワックスなどに変えられれば、エピテーゼのワックス造形はかなり楽になります。

まだまだツボどころは経験と勘が幅を利かせていますが、いずれこういうのが応用されるようになって、患者さんの負担が減ればいいですね。

まだしばらくかかりそうかな・・・



お絵かき

小学生のころから図工は好きでしたが、絵を描くのは嫌いでした。
工作に当たる部分だけが好きなのはやはり今の仕事に通じていますね。

ところが最近どうしてか絵を描いてみたい気持ちがあり、といっても何を描きたいということもないのですが、とりあえずピンタレストなどで拾った、ちょっと心惹かれる水彩画なんかを模倣してみたりしています。

しばらく前にそろえた固形水彩絵の具も、ただ単に道具として魅かれただけで、絵を描こうと思って買ったわけでもないし・・

それでもシリコンの採色には役立ってくれるのを発見したりと、ぼちぼちは使っています。

水彩画の模倣みたいなことをしてみると、意外に色をコピーするのがうまくいったりと、歯の仕事やエピテーゼの仕事で、知らず知らずのうちに色彩感覚を磨かれているのかも、などとつい思ってしまいます。

コピーの次は写真から水彩に起こせるか?とおもい写真をコピーしてみました。
元ネタの写真を載せるといろいろと問題あるかもなので、恥ずかしながらも自作の絵を

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この絵の前に同じモノを色鉛筆でも描いています。

うちの息子が宿題で人体の各部分を色鉛筆で描いて提出しないといけないようで、結構いい色鉛筆を持っています。

それを借りて描いてみましたが、何となく血の鮮やかな赤が出ないので水彩で挑戦しただけです。

5mほど離れたところから見ると似てるといえるようなレベルです。

次に犬の写真から水彩画に起こしてみました。
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実際の犬は光沢のある真っ黒に茶色が入っているのですが、この絵だけを見るとそれは全然伝わってこないですね。

いまだ色の道で堂々巡りです。

イメージとの闘い

最近歯の仕事でクリニックに立ち会いに行くことが多く、ほとんどが要求度の高い患者さんのケース。


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写真はラミネートべニアのケースで、天然歯の表面だけを削ってセラミックスなどの薄い付爪のようなシェルを貼り付ける処置。

この患者さんは欧米の方で、歯並びもきれいだし虫歯もない。ただ歯の色を白くしたいということでラミネートべニアの処置を希望して来院。

正確にはすでに10年ほど前にラミネートの処置をして歯を白くしているのだけれども、今回はもっと白くしたいという理由で、既存のラミネートべニアを外して新しくつくりなおしている。

全部で9本の処置ですが、すべて神経の残っている歯なので、既存のベニアを外すのにも麻酔を打たないといけない。

結構な苦痛もあると思うのですが、それでも歯を白くしたい気持ちのほうが勝っているんですね。

写真のときはまだ、完成前の素焼きの段階で外形と適合の確認に試適した時のもの。

素焼きの段階とはいえまあまあうまくいっている予感が感じられるのだけれど、それでも患者さんにはいろいろと注文を付けられる。

一番は左右対称じゃないということらしい。
通常どんな人間でも完璧な左右対称というのはありえないし、ましては普通に人と話をしたりするときの距離であれば、その辺は全然気にならないはずなんですが、患者さんの心理としては自分の中にあるイメージを追及しているので、それを知るまでに時間がかかったりする。、

治療台の上で手鏡で確認したり、スマホで写真を撮ったりして盛んに確認する。

特に最近はこのスマホが曲者で、撮った写真をありえないぐらいに拡大したりするのでいくらでもアラはみつけられる。

顔面補綴の仕事をしていると、目や鼻、耳がなかったり、願望も著しく変形している患者さんもいる。
筋肉も切除されていて、顔貌の変形に合わせて口を大きく開けることができず、口腔内の衛生状態が悪い方もいる。

そういう人から見ると、このコンマ何ミリの差というのはどうでもいいことなんだろうけどね。

そういつも思いながら日々患者さんの追い求めるイメージと戦っています。

顔面補綴マニュアル  やさしい義眼の作り方 How to make artificial eye
How to make Ear Prosthesis 英語版
エピテーゼのつくりかた 耳
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村井 さむ

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日本でのプレッシャーを逃れフィリピンに移住してはや10年、まだ生きてます。やさしい義眼の作り方

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