やさしい義眼のつくりかた How to make artificial eye and prosthesis

顎顔面補綴という仕事を通じて身につけた義眼やエピテーゼの製作技術やその背景をご紹介。 あまり広く認知されていない技術ですが、どこかで誰かの役に立てればいいですね。 フィギュアなどの趣味にも生かせるように、なるべく特殊な材料や 道具を使わない方法も お伝えできればと思います。 How to make artificial eye and prosthesis.

How to make artificial eye and prosthesis.

2016年08月

鼻のエピテーゼ

耳のエピテーゼがとりあえず終わったので、たまには別の話題で。

エピテーゼの技術を教えていただいた先生が言われていたのですが
「一番難しいエピテーゼは鼻だ」

その頃はまだ症例もこなしていなかった頃で、ぴんとこなかったし、
鼻のほうが単純な形に見えたので「いや鼻は一番楽なんじゃね?」と思っていました。

その後続けてお二人ほど鼻の患者さんが来られて、鼻の難しさをいやというほど思い知らされました。
 
形が耳や眼窩に比べてすごく単純だと思ったのですが、シリコン製のエピテーゼをつけてみると、鼻は結構表情や顔面の変化で動きます。

それに顔の中心に位置するだけに、やはり患者さんもつけざるを得ない。
もちろん顔面を構成する重要なパーツでもあるので、患者さんの要求も必然厳しくなります。

耳のエピテーゼだと、しばらくするとやはり面倒くさくなるのかつけなくなる患者さんもいますが、
鼻はやはりこういうところが難しいのだと思います。

 

耳みみミミ

耳のエピテーゼねたが続きますが・・・

例の赤ちゃんの耳ですが、すきっとした形と表面性状を表現したくて、ピンクの硬いワックスで再度原型を作り直しました。

さらに今回はシリコンの着色時に何色かの繊維を練りこみました。

どうしても色素だけだと赤みが後々抜けやすいで、今回は補助的な意味も含めて繊維を練りこんで見ました。

出来上がりは毛細血管が見えるような感じでなかなかいいですね。

今使っているシリコンは以前のものに比べて、練ったときの感触が大きく違い、少しとろみがあるのですが、その割には流動性もなかなかよかったりします。

これは操作上良し悪しです。

さらさらとした感触のシリコンだと練ったときに混入する気泡は抜けやすいのですが、
反面抜けきっていない小さな気泡が、型の中で上に集まってエピテーゼの表面に出てきてしまうという難点があります。

粘度の高いものだと練ったときの気泡は抜けにくいのですが、表面にも出てきにくいというよさがあります。

シリコンの重合時に加圧もしくは加熱すれば気泡も入らないのですが、なかなか難しいところです。

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写真は基本的なシリコンの色をつけてから繊維を練りこむところです。
繊維を練りこむと流動性もまた抑えられるので、結果的にはいろいろとよいことのほうが多いですね。

しばらくは積極的に使ってみます。

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重合後、型からはずして余分なところを取り除いた状態です。
接着させるために今回は広めに膜を作りましたが、いい具合に下地を拾ってなじんでくれています。

これから最終の着色です。
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左が着色がほぼ終わったもので、右はまだ基礎色だけの状態です。 

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一個余分につくっておいて色見本に手元で保管しておきます。

患者さんが遠方の方なので、先で色が変化して着色しなおすときにきていただかなくても、この色見本で色あわせすることが出来ます。
 

ピンクの耳

例の赤ちゃんの耳。
仕切り直してワックス原型から調整してます。

前回作ったやつはトライアルとして、しばらくつけ外しの練習や観察用に使ってもらっています。

いくつかお母さんから気づいた点もいただいていますが、自分としてはやはり形が気になっています。

大体の形はあってるのですが、やはり若年代、特に今回は赤ちゃんですのでハリのある形が欲しいところです。

ワックス原型には以前紹介した粘土状のワックスを使いますが、とくにここフィリピンでは気温がやはり高いので、このワックスだと表面に微妙な凹凸が残りがちです。

最初の耳はこのワックスを使いましたが、やはり出来上がりにも少し響いています。

一度シリコンに置き換えたものを型取りし、そこに今回はもっと硬めのワックスを流し込んで別の原型を作っています。
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原型を一から作るには向いていないのですが、表面をなめらかにするのにはむいています。

さて今回はうまくいけばいいのですが。

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筆や歯ブラシで表面をなめらかにしていく作業中です。

耳のエピテーゼについて

もともとはこのブログは義眼製作のブログとして始めているのですが、私の中で義眼はあくまでも顔面補綴という中のエピテーゼの一つととらえています。

作っていて義眼の透明感に心惹かれるものがあるのですが、実際には耳のシリコンエピテーゼのほうが数は圧倒的に多いのが現状です。

小耳症の割合が多いためか、そちらの分野で少し名前が知れるようになっているからなのかはわかりません。

このブログに小耳症のエピテーゼに関する検索から来られる方が結構な数いらっしゃるようですので、
何かお役に立つことでもあればと今回は耳のエピテーゼについて少し思うところをかいてみます。

小耳症のエピテーゼで難しい部分は、ほとんどの患者さんが、小耳の部分を切除したがらないことです。

ある少年のお父さんが言われた「将来的にそこから再生できる技術が生まれるかもしれないからなるべく取りたくない」という 言葉が一番気持ちを表しているし、私自身大いに同意するところです。。


ただエピテーゼを作るうえでは、ほとんどの場合この小耳の部分が 微妙な位置にあり、
もう少し後ろに位置していてくれたら、といつも思います。

耳の形の中で一番くぼんでいる部分にこの小耳の部分が位置していることがほとんどです。
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 もう少し後ろに位置していたら、耳の形を損なわずにエピテーゼを作ることができるのですが・・・

以前はこの部分はしょうがなく盛り上がったエピテーゼを作っていました。

幸い耳の場合左右同時に側面から見ることはできません。
左右対称の形が主に求められるのは正面から見た時ですので、横から見た時の形はそれほど重要ではないといわれたことがあります。
それでも、人間の認識力というのは自然でない形は何となく感じてしまうものです。

ずっとこの部分が自分の中では課題でしたが、人工乳房を改良していくうえで見つけたシリコンで大きく改善できるようになりました。

簡単には以前より柔らかいシリコンを使うようになったのですが、小耳の部分をある程度無視して、形態重視で作ったエピテーゼでも、結構なじんでくれるエピテーゼができるようになりました。

写真のような形の小耳が多いのですが、上のほうの丸い部分は大体軟骨が入ったような硬さです。
下の部分は柔らかい耳たぶ状ですので、この部分はエピテーゼになじんでつぶれてくれます。

丸い部分は耳の形状のうち厚みのある部分でカバーすることができますので、エピテーゼ自体の形はほぼ健常側のものと変わらずに作ることができます。

その代わりこの耳たぶ状の部分の内側からの反発があるわけで、新たなジレンマが生まれます。

接着剤でエピテーゼを装着する場合、強い接着剤を使えば反発は抑えられますが、かわりにエピテーゼの痛みと汚れがひどくなります。

現在はエピテーゼが傷みにくい医療用の接着剤を使っていますが、接着力が弱くなるのを補うために耳の後ろ側の部分の薄皮と呼んでいる部分をなるべく広くとって接着面積を増やしてカバーするようにしています。

今のところこの耳のエピテーゼが自分の中のベストです。いやまだ完璧じゃないのでベターですね。

ただこのエピテーゼだと装着してみるまで最終的な形がわからないという問題が出てきます。

耳たぶの反発でエピテーゼが結構変わります。
特に前から見た時のラインが変わりますので、ここを予想して原型を彫刻しないといけません。

これは数をこなすしかないですね。
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写真は先日の赤ちゃんの耳ですが、これもまだ終わっていません。
やはり一度シリコンに置き換えて接着してみて、形を確認する必要があります。

通常、この確認後再度原型を調整して型から作り替えないといけません。
普通の耳のエピテーゼの倍の労力がかかりますが、ここはこだわりたいところです。

この赤ちゃんの耳の場合はもう少し形状ももっとハリのある若々しいものにしないといけないし、
固いシリコンだとこの辺は表現しやすいのですが、難しいところです。

もう一つ今の柔らかいシリコンを使うようになってメリットが生まれました。

以前の固いシリコンだと、口を大きく開けた時に部分的に隙間が生まれることがありました。

顎の動きに応じて顔面の形も大きく変わる部分がありますが、これに追従できないせいです。
やはり柔らかいシリコンだとよく追従してくれます。

もう一点エピテーゼを装着した後にシャツを脱いだりすると、シャツに引っかかってエピテーゼが取れやすくなるのですが、柔らかいシリコンだとこれをうまく受け流してくれるようです。

何よりエピテーゼを触った時、あの耳たぶの柔らかさに近いのは気持ちがいいものです。

今後の課題は部分的にシリコンの固さを変えるハイブリッドに挑戦してみたいと思います。
あと皮膚の中の毛細血管を表現するのに繊維をシリコンに練りこんでみようと思います。

特に若年代の耳は表面に産毛が生えて、これがまた見た目の柔らかさも醸し出していますが、
エピテーゼの場合は表面の着色後、コーティングするとどうしてもこの柔らかさが出ません。

なるべく表面のステインとコーティングをしないでこの柔らかさを表現できるようにしないと、というのもずっと課題です。

どのエピテーゼもやはり人体の一部を模倣しないといけないので難しいですね。



 

画像処理

耳のエピテーゼねたですが、義眼にも役に立つので少しばかりご紹介。

3Dプリンタや3Dスキャナを使うようになれば、だいぶ楽になると思うのですが、
エピテーゼつくりで一番時間をとられるのはやはり彫刻です。

健常なほうの型をとって複製を作り、それを頭の中で反転しながらワックスで原型を作る作業です。

エピテーゼ装着面のコンディションなどにより、単純に3Dスキャナのデータを反転すればいいかといえばそううまくいかないのが面白いところでもあるのですが、
それでも大体のところまで形ができればだいぶ楽になると思います。・・とはいってもなかなかそこまで設備に投資できないので、当分はやはり手作業。

だいぶ形は似ているのだけれど、まだなんか違う、というときの確認には画像処理ソフトを使っています。


今まではフォトショップなどの画像処理ソフトで、作った原型を反転して、レイヤーの透明度を上げて重ね合わせてチェックしていましたが、最近はスマホ用のアプリでも同じことができます。

こういうアプリを無料で使えるというのもすごいと思いますが、これだけの処理をスマホでできるようになっているというのもやはりすごいですね。

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写真はスマホのスクリーンショットです。
Adobe Sketchというアプリを使っています。

はっきり写っているほうが健常側を反転したもの。
半透明なほうが私が作ったシリコンエピテーゼです。

この半透明にしたレイヤーを上に重ねるとどの部分が違うのかが見えてきます。

眼球を含んだ眼窩のエピテーゼの場合は、同じようにして眼球の中心点や交際の大きさをチェックすることができます。

お試しのほど
 
顔面補綴マニュアル  やさしい義眼の作り方 How to make artificial eye
How to make Ear Prosthesis 英語版
エピテーゼのつくりかた 耳
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村井 さむ

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日本でのプレッシャーを逃れフィリピンに移住してはや10年、まだ生きてます。やさしい義眼の作り方

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